古くから伝わる文化やエンターテイメントでも、古臭くなってしまうものと、進化し続け、受け入れられ続けるものがあります。そこにはどのような違いがあるのでしょうか?具体的な事例を交えながら深掘りしていきます。
伝統とテクノロジーの融合、イェール大学バイオリニストの事例
イェール大学音楽学部の学生であるIlana Zaksさんは、新しいコンサート体験を作り出しました。彼女はコンサートで演奏を始めると、LEDライトを身につけ、背後のスクリーンにビデオゲームを投影したり、シェイクスピアの「無題」を黙々と演じる俳優と一緒に演奏したり、観客をステージに近づけてより親密な体験をするよう呼びかけたりします。
そして何より、音楽そのものと彼女自身のナレーションによって、クラシック音楽の演奏の歴史を物語る構成で展開されていきます。その歴史は、コンサートが裕福な個人の邸宅での社交の場だった時代から、公共の市場でより公平な娯楽となった時代、そしてアーティストが主に静かなコンサートホールで演奏した時代から現代のより体験的なイベントへと進化していく様を観客に語りかけてきます。
彼女がこういった前衛的なコンサートばかりを行うアーティストかというと、そうではありません。彼女は普段は伝統的な空間で、主にクラシック音楽のコンサートを行うバイオリニストなのです。しかし、クラシックは聴きにいくにはハードルが高いと思っている人がいるのも事実。そんな背景からIlana Zaksさんは、「聴く資格があるとか、ちゃんと理解しているとか、そういうことではないんです。ただ楽しんで、感情的な面だけでなく、体験的な面からも直接体験して、喜びの印象を持って帰ってほしい」。そういう思いから、テクノロジーを掛け合わせたコンサートを開催するに至りました。ザックスを指導する音楽学部ヴァイオリン科のアニ・カヴァフィアン教授は、「Ilana Zaksは単に素晴らしいバイオリニストというだけでなく、思想家であり革新者でもあります。このリサイタルは、彼女ができることのベストを聴衆に見せることになるでしょう。」と語りました。
クラシック音楽自体がアレンジを加えられることによって、映画やドラマ、ゲームで活用されることは今では珍しくありません。実際、「Royal Masquerades」や「Imperial Opera」などのオンライン ギャンブルのスロットゲームで使われたりしています。
日本の伝統芸能とテクノロジー
日本にも古くから伝わるたくさんの伝統芸能があります。雅楽、能、日本舞踊、歌舞伎、落語、琴、三味線など。そういった日本の伝統芸にもテクノロジーや異種文化と掛け合わせ、新しい体験を作り出しているものはあるのでしょうか?
その一つにパナソニックとGO ONのコラボレーションにより生まれた製品がミラノサローネへの出展を依頼されるという事例があります。伝統的な木工品製造を行う中川木工芸の木桶に、小さなステンレスの玉をたくさん入れることで、ステンレスの玉が非接触でIHの媒介として機能し、ワインクーラーになります。また、とっくりの底に金属板を仕込むことで、遠距離からとっくりを熱することができるような製品も生まれています。他にも、三味線や和太鼓など、和楽器と西洋のバンドがコラボした「和楽器バンド」も融合の一例です。さらに、歌舞伎とアニメがコラボした「スーパー歌舞伎」なども新しい体験を創出し、若い世代を伝統芸能に呼び込みました。
クラシック音楽の融合による未来
クラシック音楽も様々な文化と融合することで、進化し、若い世代にも受け入れられてきました。発信の仕方も、チケットを購入し伝統的なコンサート会場で、というだけでなく、eチケット、キャッシュレス化、YouTubeでの発信など時代に合わせて変化してきました。時代を超えて愛される普遍的な音楽だからこそ、発信の仕方、受け入れられ方については時代に合わせたテクノロジーやカルチャーと掛け合わせ、愛される工夫をする必要があるのです。